NEWS LETTER    第6号 (2004年 秋)


 人口衛星による観測データを使った海氷の変動の解析
    木村 詞明     きむら のりあき


  地球上の海の約1割は海氷に覆われます。海に海氷があると、太陽の光が多く反射され、海と大気との間の熱交換が遮断されます。また、海氷は凍ったり融けたりする時に熱を放出したり吸収したりします。これらの特徴のために、海氷は地球の気候に大きな影響を及ぼしていると考えられています。

  私は主に人工衛星による観測から得られるデータを使って、海氷分布の変化の全体像、つまり、海氷がどこでできて、どのように移動し、どこで融けているのかを知るための研究をしています。人工衛星による観測では、海氷のひろがりや動き、表面の状態などを知ることができ、広い範囲を一度に見たり、毎日の変化を連続して見たりできるという利点があります。

  これまでの研究から、例えば、オホーツク海の海氷は北部のシベリアや樺太の沿岸で多く生成され、風と海流によって南や南東向きにひろがっていきながら、海氷域の南端ではどんどん融けていっていることなどが分かってきました。また、北極海や南極海の海氷変動のメカニズムについても明らかになってきています。もちろん、まだ分からないこともたくさんあります。ある海氷がどこでできて、どういう成長過程を経てきたものなのかきちんとは分かりませんし、北海道沿岸で、いつどこに行けばどんな海氷を見ることができるのか、あるいは、来年の海氷は多いのか少ないのかといったことを正確に予測することもできません。

  美しくて謎の多い海氷の実態をひとつひとつ明らかにしていくのは、それ自体がとても楽しい作業です。さらに、海氷の変動の実態がどんどん明らかになれば、地球が温暖化したときに世界中の海氷はどう変化していくのか予測できるようになりますし、日々の天気予報の精度もよくなっていくでしょう。




図:南極大陸の周辺の平均的な海氷の動き。人工衛星搭載のマイクロ波放射計 SSM/I の毎日の画像を使って計算したもので、青っぽいところほど動きの速いところを示してます。



























 古海洋研究がCOE温暖化プロジェクトにはたす役割
  堀川 恵司     ほりかわ けいじ



  現在進行している温暖化の性質を理解し、温暖化によって生じる陸上・海洋生態系の変化を予測するためには、過去の温暖化の際に地球表層で何が起こったかを理解することが重要です。特に、どのような気候システムの中で、どのようなフィードバックプロセスが働いていたかを理解することが重要だと考えられています。

  古海洋研究は、海底堆積物を対象としています。海底堆積物は、過去の地球表層環境に関する様々な情報を記録しており、堆積物に含まれる微化石・鉱物・有機物の分析や解析を行う事で、数百年間隔で信頼できる多数の情報を抽出する事ができます。例えばこれらの試料に対して、炭素・酸素・窒素などの安定同位体比分析、微量元素濃度の分析、微化石の群集解析、鉱物の化学組成の解析などを行う事によって、当時の海水温、塩分、栄養塩濃度、基礎生産の程度、植物プランクトン群集の組成比、陸上後背地の乾湿状態や風系などを復元することができます。このような様々な指標データに基づいて、過去の地球表層でどのような環境変動があり、それに呼応してどのような海洋生態系の擾乱があったのかが、詳しく検証されてきています。

  現在、私達の研究グループでは、下図に示されるように西赤道太平洋・東赤道太平洋・釧路沖・鹿島沖など地理的位置や海洋環境の異なる海域で形成された海底堆積物を対象として、各種化学分析を行っています。この中で我々が焦点を当てているのは、海洋生態学的に特殊な海域において海洋生態系が気候変動に対してどのように応答していたのかという問題や、複数の海域に注目し過去の大気―海洋システムのテレコネクションの実態を解明することなどです。古海洋研究によって、過去の温暖化の際に起こった様々な現象の理解とその現象の規則性等を明らかにする事で、COEプロジェクトに広く貢献できればと考えています。







  私達のCOEでは、過去の地球環境を知り、現在の地球を理解する観測に基いて将来予測を目指しています。その代表的研究を今回は紹介します。