NEWS LETTER    第5号 (2004年 夏)


 機能性材料を使用した電気化学法による環境物質の新規検出法および修復法の開発
    照井 教文     てるい のりふみ


  産業や生活様式の高度化に伴い多種多様な化学物質が環境中に放出されており、非常に低濃度でも深刻な影響を与える環境汚染物質の存在が懸念されています。一方、環境汚染物質として疑われたにも関わらず、研究が発展するに従いその影響が疑問視されるなど未だ評価が定まっていない物質もあります。このような複雑な状況のため、環境中に低濃度で存在する環境汚染物質を探索し、その影響を評価することの重要性がより高まってきています。私たちのグループでは探索→影響評価→状況調査→環境修復という一連のシステムによって効率的な物質の処理を目指していますが、その中で私は電気化学法を利用して低濃度環境汚染物質を検出・低減化する方法を開発しています。

  溶液中に低濃度で存在する汚染物質を効率的に検出するためには、目的物質を電極近傍に局所的、選択的に捕集・濃縮する必要があります。本研究では芳香族有機化合物に対して高い捕集効果があるカーボンナノチューブや発癌性の環境汚染物質と特異的な相互作用を示す生体物質であるDNA、環境中の重金属イオンとの結合能を有する腐植物質など、様々な機能性材料で修飾した電極を作製し、低濃度汚染物質の電極反応をより効率的にすることを試みています。さらに他の分離・濃縮法と組み合わせることにより、より簡便で高感度な検出法の開発を考えています。

  検出した低濃度汚染物質の除去・低減化に関して、土壌中の重金属や有害有機物に対しては土壌中に埋め込まれた電極間に電位を印加することにより発生する電気泳動と電気浸透流を利用したエレクトロカイネティックレメディエーションによる除去法を検討しています。また、女性ホルモンであるエストラジオールなど溶液中の低濃度汚染物質をカーボンファイバーを束ねた電極上に集積し、電解することにより効率良く無害化する方法の開発も行っています。








 地球温暖化と氷河
  紺屋 恵子     こんや けいこ



  “地球温暖化によって地球上の氷がとけて少なくなる”という話を耳にしますが、本当にそうでしょうか?現在のところ、極域では温暖化によって降水量が増加するため、南極氷床の氷の体積は増加すると考えられています。グリーンランドや他の山岳地の氷河は減少すると予想されていますが、そのどちらも場所によって異なります。

  個々の氷河については、気温が高くなると氷河はどれだけ融けるようになるかという計算結果がいくつもの氷河で得られています。ただし、その割合は氷河によって異なります。例えば、昨年のヨーロッパはとても暑く、私が観測を行ったスウェーデンの氷河も激しく融解しました。気象観測の結果、暑い日には日射量も大きく、日射と気温の両方の影響で融解量が多かったということがわかりました。つまり、温度が高くても天気が悪ければそれほど融解は進まないと考えられます。これは、日射から多くのエネルギーを得て融解するというこの氷河の熱収支的特徴によります。逆に、顕熱の割合が多い氷河では気温が高ければ融解が多くなります。私はさらに、この氷河の融け方を面的に調べています。地形による日影のでき方や標高によって融解量が違うためです。面分布を直接測定することができないため、計算にはGISを利用しています。また、氷河全体の総融解量は氷河からの河川の流出量とほぼ同等なので、この研究は氷河の水を生活に利用している地域にも貢献できると考えています。

  温暖化すると結局氷河はどうなるか?これに答えるには「暑い日に、かき氷は早く融けるのか」とは違う複雑な気候システムの変化の中での氷河の存在の仕方を考えなくてはなりません。なぜなら氷河はいろいろな因子の影響を受け、それらの因子がまた温暖化の影響を受けていると考えられるからです。今後はこれらの過程を含んだ将来予測をしていきたいと考えています。









  COE研究員の照井氏とリサーチ・アシスタント学生の紺屋さんに研究概要を書いてもらいました。次号以降にも若手研究員が続々登場します。