NEWS LETTER      第2号 (2003年 夏)



 海洋物質循環モデリングの新しい役割をめざして
 
程木 義邦  ほどき よしくに 



 近年、大気圏オゾン層の破壊に伴う太陽紫外放射の増加が観測され、紫外線が生物に与える影響について研究が取り組まれるようになりました。水界環境に関しては、強度の紫外線が到達する水界表層付近において、藻類の光合成阻害や細菌のDNA損傷を引き起こすことが知られていますが、多様な生物、多重構造の栄養段階、膨大なデトリタスで構成される複雑な海洋物質循環レベルの応答を解明するためには未だ情報が不十分であり、紫外線が増加すれば生物生産量が低下するのか?構成生物はどう変わるのか?といった問いに答られるまでには至っていません。特に海洋物質循環の重要な構成要素である溶存態有機物は、その現存量の多さから、大気二酸化炭素濃度の挙動にも大きく関わる要因として長期的な挙動が注目されていますが、紫外線の増加により光化学的分解が促進するため減少する方向に働くとする解釈、分解者の細菌の活性が阻害されるため増大するとの解釈があり、現在においても大きな争点となっています。


私達の研究グループでは、今後数十年にわたる紫外線の増加が海洋物質循環に与える影響について、特に微生物ループにおける物質挙動や群集構造の変化に注目して解明を行います。微生物ループとは、従属栄養細菌が溶存態有機物を消費し増殖することを始点として高次の栄養段階に食物連鎖がつながる経路のことで、外部からの有機物供給が少なく溶存態有機物量が多い海洋では、高次栄養段階への物質やエネルギーの輸送経路として重要な役割を担っていることが明らかとなりつつあります(図)。しかし、海洋における微生物ループの研究も始まったばかりであり、研究手法についても多くの課題が残されています。これらの問題点を克服し多種の生物によって構成される複雑な系の応答を解明するために、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法による細菌の同定やin situハイブリダイゼーションによる定量など、微生物生態学の分野で用いられつつある分子生物学的手法を導入し、紫外線の増加が海洋物質循環に与える影響について解明を試みます。


図.プランクトン植物連鎖の半定量的模式図(渡辺(1990)を一部改訂)










    触媒を用いた硝酸汚染地下水の浄化
    三上 いっこう  みかみ いっこう  

 工場廃水、窒素肥料、家畜し尿、生活排水などを発生源とする硝酸イオンによる地下水の汚染が顕在化しています。平成1213年に実施された北海道内の井戸水の水質調査によると、硝酸性窒素および亜硝酸性窒素の環境基準値を超える検体は5.7%にのぼっています。硝酸イオンは、メトヘモグロビン血症や糖尿病を引き起こすなど、人体に有害であることが指摘されており、浄化技術の開発が必要とされています。


 私たちは、水中硝酸イオンを固体触媒を用いて還元除去する技術の開発を行っています。これまで水の浄化は主にバクテリアによるバイオ法で実施されていますが、この方法には反応速度の遅さや維持管理の煩雑さという課題があります。それに対し固体触媒法は、高速、小規模設備での除去が期待できる新しい方法です。


 実用の観点から安価な卑金属を中心に有効な固体触媒の探索を行ってきた結果、
Ni微粒子が硝酸イオンの水素還元に活性を示し、さらにごく微量の白金を添加すると室温付近で従来のバイオ法の100以上の超高速で200ppmの硝酸イオンを完全に水素還元できることをこれまでに見出しています。この触媒はNH3の生成が多く、現時点ではばっ気による除去システムとの組み合わせが必要ですが、N2選択性向上によって、一段での完全無害化も実現可能です。


 ドイツでは世界に先駆けて、地下水の硝酸還元除去をPd-Cu合金触媒で実用化しています。しかし、触媒寿命や触媒コスト等がネックとなっていて、全世界的な普及には至っていません。そのため、開発した触媒の耐久性や、共存するイオンやバクテリアによる影響など実用の際問題となるような点についても検討したいと考えています。さらに、低濃度硝酸イオンにとどまらず、屎尿処理場、化学工業、食品加工業などでの高濃度廃水の処理への適用性を明らかにするなどにより、固体触媒を用いた新たな水浄化システム構築の研究を進めていきたいと考えています。








9月29日に本研究科設立10周年記念シンポジウムを開きます。COEプログラムはその中核を占めています。もしお時間が許せば、ご出席ください。