NEWS LETTER   第1号(2003年 春)



海洋物質循環モデリングの新しい役割を目指して
 吉江 直樹    よしえ なおき    




 我々の研究グループは、モデリングという手法を用いて「気候変動の影響評価」や「社会的対策」につながる研究を目指している。21世紀COEで行われている観測と直接的に比較できるような領域モデル(日本近海を表現する高解像度(1/4 x 1/4度)の3D海洋物質循環モデル)を開発・応用し研究を進めていく。

 私は、その領域モデル中で重要な位置を占める生態系モデルの開発・改良を行う。現場観測や室内実験も行うことにより、文献値のほとんど無い生理的パラメータを補いながらモデリングを進める。

 現在、海洋物質循環の研究分野で最もホットな話題の一つである「鉄濃度と植物プランクトンの生理活性の関係」に注目し、西部北太平洋亜寒帯域での鉄散布実験“SEEDS2001”の結果(珪藻[珪素の外殻を作る植物プランクトン]が大増殖し、海表面二酸化炭素分圧が激減した)についてモデル化を試みている。2週間の観測期間中は、表層から深層への炭素輸送量は2倍程度の増加であったが、その後どうなっていたかが注目されている。東部北太平洋での鉄散布実験”SERIES2002”のように増えていたのかどうか、本モデリングによる見積もりに熱い期待がもたれている。また、水産総合研究センター(東北水研)と共同で現場観測や室内実験も行っている。

 この他に、亜熱帯域の物質循環に深く関わっているといわれる非常に小さなサイズの生物群にも注目し、藍藻[窒素固定を行う植物プランクトン]、原核緑藻、バクテリア、それらの捕食者である微小鞭毛虫類などを通した微小食物連鎖環についてモデル化を試みている。また、近年の温暖化に伴い、これまで珪藻の優占していた海域が円石藻[炭酸カルシウムの外殻を作る植物プランクトン]が優占する海域にシフトしてきていることが報告されており、そのメカニズムと物質循環への影響ついて調べるために円石藻の挙動についてモデル化を試みている。











劇変予測に向けた森林生態系研究
長谷川 成明   はせがわ しげあき   



地球の陸上の総面積の約3割は森林が占めています。森林生態系は生態地球圏システムの巨大かつ主要なコンポーネントの一つであると言えるでしょう。そのため今後の生態地球圏システムの劇変を予測してゆく上で、森林生態系の変化予測は重要な意味を持っています。

 しかしながら森林生態系の挙動について残念ながら未知の部分が多く残されています。これは森林生態系が様々な形態、生活形をした動植物により構成された多様性の高く非常に複雑な生態系であるため、全容を把握することが困難なことが原因の一つとなっています。

 この複雑な森林生態系を理解するために、森林を構成する小さな要素がどのように集合して森林生態系が形作られているかを調べるアプローチがとられています。具体的に述べますと、森林生態系は、多くの種類の樹木が集合してできています。そして、それぞれの樹木は、いくつもの枝(この単位をシュートモジュールと呼びます)が複雑に組み合わさることでできています。
すなわち、

シュートモジュール→ 樹木→ 森林生態系

というスケールの異なる要素の、階層的な構造が森林生態系には存在します。この階層における下位の要素がどのような振る舞いをして、それが上位の要素にどのように影響するかを知ることで、下位要素の情報をもとに上位要素へとスケールアップすることができます。すなわち、シュートモジュールに関する情報をスケールアップして樹木の挙動を知り、そうして得られた樹木の挙動に関する情報をさらにスケールアップしてゆけば、森林生態系の振る舞いに関する知見にまで繋げることができるでしょう。

 私は、このようなシュ−トモジュ−ルの挙動が森林樹木の挙動にどのようにつながっていくのか、研究を行っています。シュートモジュールは、生物地球圏システムという、非常にスケールの大きなシステムに比べればあまりに小さくて、地球環境の劇変とは縁遠い存在のように見えるかもしれません。しかしながら、シュートモジュールのように小さな物から樹木へ、そして森林生態系、生態地球圏システムのような大きなシステムへと有機的に構成されることでこの複雑なシステムは成り立っています。

 小さなスケールから大きなスケールへとつないでゆくメカニズムを解明してゆくことが、今後のシステム変動予測に役に立つでしょう。私はこのCOEプログラムにおいて他の研究分野と連係しながら生態地球圏システムの劇変の予測と回避に向けた研究を行ってゆきたいと考えています。



   秋のカラマツ


































 ガイアグループ・ニュースレター 第11号で紹介した21世紀COEのニュースレターを創刊しました。季刊とする予定です。